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三一  茨の冠



 見張り小屋の中庭は柱で囲まれていた。入口が開かれた。そこには五十人ばかりの意地悪な野次馬、囚人の監視者、獄吏、奴隷、鞭打ちの刑吏などが集まっていた。はじめ民衆がひしめきよせて来たが、間もなく兵士千人によってその建物は包囲された。かれらは隊伍を組んでいた。そして笑ったり、からかったりしていた。それは悪人たちに、かれらが主に加えた虐待を兵士らの面前で自慢させる動機となった。兵士らの爆笑や冗談は役者に対する喝采のように卑劣な悪人たちをあおった。かれらは古い柱の土台を真ん中にころがして来た。それには柱を入れる穴があいていた。その上に低い丸い椅子を置き、かどばった石と瀬戸物の破片などを、その椅子の上にばらまく意地悪も忘れなかった。

 かれらはまたもや着物を全部傷ついた体からむしり取り、古い赤い引き裂けた膝までも届かぬ兵士のマントをかけた。そのマントはあちらこちらに黄色い飾り房のボロ屑がついていた。それは獄吏室の片隅に置いてあって、鞭打たれた罪人におそらくその血をふくために平素用いたものである。さてかれらはイエズスを引きずって行った。そして主の傷ついた体をあらあらしく、破片や石の敷いてある椅子の上に腰かけさせた。それから高く厚く編んだ茨の冠を主にかむらせた。かれはこの冠をバンドのように主の額にまきつけ、うしろでそれを縛った。それは帽子のかっこうをした冠であった。それは指三本ほどの厚さに若々しい数本の茨の枝で編んであり、トゲは大体みな内側に向くようにしてあった。わたしは二、三人の悪者たちがこの茨を取りに行った場所を見た。それからかれらは主の手に、穂が先についている太い芦を持たせた。すべてこれらの所作を嘲弄的な荘厳さをもって、あたかも本当の王に戴冠するように行った。かれらは次いで主の手から芦を取って激しくその冠の上をたたいた。血潮は主の両眼にあふれた。かれらは主の前にひざまずき、主に向かい舌を出し、その顔を打ったり、つばを吐きかけたりして叫んだ。「ユダヤ人の王よ、安かれ。」かれらは主を嘲弄しながら、椅子と共に突き倒し、また改めてその上に押し座らせた。

 わたしはお気の毒な主を嘲弄する悪者たちのこのあくどい思いつきを、すべてくり返し述べることはとてもできない。ああ、主は恐るべき渇きにおそわれたもうた。むごたらしい鞭打ちの刑によって、肉はズタズタに裂かれたために、主は一種の創傷熱におそわれたのだ。主は打ちふるえておられた。おん脇腹の肉はあちらこちら肋骨の現れるまでひき裂かれ、その舌はけいれんしたように引きつっていた。

 こうしてイエズスは半時間ほども虐待された。そして見張り小屋を列を作って囲んでいたローマの歩兵隊はそれを嘲笑い、騒ぎ立てていた。




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